2018年4月4日水曜日

コモンウエルス・ゲーム 2018(3):開会式

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 今日はコモンウエルスゲームの開会式である。
 場所はカラーラ・スタジアム。
 いつものフットボールの試合でに賑合うところだが、この大会に合わせて大改造してアスレチック場に造り替えた。
 観光客にはカラーラ・マーケットの方が有名だが、そこから少々のところ。
 でも交通の便は実に悪い。
 電車を降りて、バスに揺られて、さらにバス停から20分歩くという。
 なにしろここの都市計画は行き当たりばったりで行われるので、とんでもないことが多く発生する。
 ロビーナ駅とロビーナタウンセンターなどはその典型であろう。


 『歩け はだし1,000キロ達成祝い』を行うために7時頃「大樹」へいったのだが。
 大樹はトライアスロン・コースの中にある。
 明日と明後々日の2日間に行われる。
 ゴールドコーストハイウエイの閉鎖準備が始まっている。
 道路はガラガラである。
 大樹は2,3軒のレストランが入っている建物の一画にある。
 どのレストランも閑古鳥が鳴いている。
 この道路状況ではお客さんも来ない。
 駐車場も2,3台停まっているだけ。
 さて入ってみる。
 先客が一組だけ。
 まるで貸し切り状態である。
 2月のはじめに出かけていったときは満席で断られたほどであったのだが。
 そのあと、開会式をみてからやってきたという一組が加わって、計3組が今日の全お客になる。
 商売によってはいい迷惑なイベントである。
 
 自宅に戻ってからテレビのスイッチを入れる。
 時刻は8時半ほど。
 開会式は7時から始まっているが11時近くまで続く。
 印象はというと、ズルズルと総花的で「これは!」というインパクトがない。
 ロンドンオリンピックのときは、「女王陛下とジェームス・ボンド」が出てきたり、「
 ミスター・ビーン」が相変わらずのお茶目ぶりを発揮していたのだが。
 いわゆる筋になる何かがない、と言うことだと思う。
 イベント脚本がぬるいようにみえる。
 まあ、州都でもないゴールドコーストではやむ得ないことではあるが。
 それでもこれだけ大がかりにイベントを行うというのはゴールドコーストにとってもすごいことであると思える。


● オーストラリアチーム入場風景


● チャールズ皇太子大会開始宣言

 後日の話だが、開会式が終わってバスに乗るのに2時間待ちになったという。
 観客からは当然、不平不満が出ている。
  オリンピック誘致を視野に入れての今回の大会だが、これでいろいろな不具合をあぶりだすというのがゴールドコーストの裏の目的でもある。

 また、期間中はサーファーズパラダイス、ブロードビーチそしてクーランガッタ空港はスキスキで商売にならないという。
 車がつかえなければ観光地の中央のレストランには足が向かないだろう。
 ゴールドコーストにとっては今後の観光発展のためのイニシャル・リスクというか、授業料ということなのであろう。
 

JB Press 2018.4.10(火)  佐藤 けんいち
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52764

英国の“威光”を伝える知られざるスポーツの祭典
あなたは「コモンウェルスゲームズ」を知っていますか?

  「平昌オリンピック」の話題もそろそろ忘却されようとしている今日この頃だが、南半球のオーストラリアでは「コモンウェルスゲームズ」(Commonwealth Games)が開催されている。
 オリンピックと同様に4年に1回開催されるが、日本ではほとんど報道されることがない知られざるスポーツの祭典だ。

 コモンウェルスゲームズは日本語で表現すれば「英連邦競技大会」となる。
 「英連邦」とは、大英帝国の自治領や植民地だった諸国で構成される連合体のことだ。
 第1回大会は1930年にカナダで開催された。
 構想自体は、フランスのクーベルタン男爵が提唱した「オリンピック大会」よりも先行していたが、オリンピック第1回アテネ大会が開催された1896年より30年以上遅れて実現した。
 当初は「ブリティッシュ・エンパイア・ゲームズ」(大英帝国競技大会)とよばれていた。


●英連邦を構成する国(出所:Wikipedia)

 21世紀になってからは、イングランドのマンチェスター、オーストラリアのメルボルン、インドのデリー、スコットランドのグラスゴーで開催されている。
 そして2018年4月4日、オーストラリア東海岸のリゾート都市ゴールドコーストで「2018年コモンウェルスゲームズ」(XXI Commonwealth Games)が始まり、現在、真っ最中である(4月15日まで)。
 開会宣言は、英国のチャールズ皇太子が行った。
 本来は、英連邦の象徴的存在として、オーストラリアの国家元首であり英国女王でもあるエリザベス2世が行うはずであった。
 だが、まもなく92歳という高齢もあって公務縮小の対象となり、皇太子夫妻が名代として出席することになったのだ。

 ゴールドコーストがあるのはクイーンズランド州である。
 その州名は言うまでもなく大英帝国時代のヴィクトリア女王から来たものだ。
 オーストラリアでの開催は、2006年の第18回大会(メルボルン)以来、今回で5度目となる。


今回は、日本では知られていないコモンウェルスゲームズの話題に絡めながら、大英帝国が生み出したソフトパワーである「近代スポーツ」と、英連邦という見えないネットワークが現代世界において持つ意味について考えてみたい。

■産業革命と「近代スポーツ」の関係

 「近代スポーツ」は、そのほぼすべてが19世紀の英国で生まれ、第2次グローバリゼーションを主導した大英帝国のネットワークを通じて全世界に広がった。
 サッカー(=フットボール)、ラグビー、クリケット、ゴルフ、ボクシング、ボウリングなどがその代表である。

 英国以外が起源の近代スポーツには、米国生まれのベースボールやバレーボール、バスケットボールなどの球技がある。
 これらはみな19世紀から20世紀にかけて米国で生まれたものである。
 ネットを挟んでコートの両面で対戦するバレーボールは非接触型のチームスポーツであり、YWCA(キリスト教女子青年会)から始まった(参考:2018年1月2日掲載の本コラム「『米中G2時代』の現実から目をそらしてはいけない」では、バスケットボールが米中関係を円滑にしている事実に触れた)。

 近代スポーツは「伝統スポーツ」と対になる概念である。
 綱引きは世界中で行われてきた伝統スポーツだ。
 日本でいえば相撲や流鏑馬(やぶさめ)や蹴鞠(けまり)などがそれに該当する。

 伝統スポーツから近代スポーツに変化したものもある。
 例えばラクロスは北米の先住民イロコイ族の伝統スポーツが起源だが、カナダで近代スポーツ化されている。
 また、先の平昌オリンピックで日本の女子チームが大活躍したカーリングは、スコットランド移民がカナダに持ち込んで近代スポーツ化したものだ。
 テニスは英国生まれではなく、フランスの宮廷に起源があるとされている。
 
 近代スポーツは、「ルール」に基づいて点数で勝敗を競いあう「ゲーム」であり、「近代資本主義」と同じ発想に立つ「文化」だといえる。
 その意味では、誕生も発想もきわめてアングロサクソン的だ。
 身体という「アナログ」と、勝敗が数字で明らかになる「デジタル」の要素を備えている。

 英国で近代スポーツが普及したのは、英国で始まった産業革命が背景にあった。
 産業革命によって工場労働者が増大すると、経営者は生産性向上の観点から職場に「禁酒運動」を導入し、福利厚生の観点から休日のレクリエーションを振興したのである(禁酒運動については2018年1月16日掲載の本コラム「アル中だったブッシュと、一滴も飲まないトランプ」を参照)。
 「スポーツ覇権」は20世紀以降は米国にシフトして現在に至っているが、そもそもの出発点が19世紀英国であったことは押さえておきたい。

■英国起源の2つの団体競技、サッカーとクリケット

 近代スポーツは英国が発祥の地であり、英国にとっては「ソフトパワー」として現在でも大きな意味を持つ無形資産である。

 英国起源の団体競技としてサッカー(=フットボール)とクリケットを挙げておこう。
 ともに11人制の団体競技(チームスポーツ)である。

 サッカーのFIFAワールドカップでは、英国を構成するイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの地域がそれぞれ別個のチームとして参加資格を与えられている。
 サッカー発祥国としての特権である。

 サッカーは全世界に普及したが、クリケットの普及は英連邦に限定されている。
 クリケットは攻撃と守備に分かれてバットでボールを打つ団体競技であり、基本的な構造はベースボールと似ている。



 サッカーとクリケットは、第2次グローバリゼーションの中、大英帝国のネットワークを通じて世界的に普及した。
 欧州では、港町の在住英国人の間で「クリケット・アンド・フットボール・クラブ」 (Cricket & Football Club)として始まっている。
イタリアを代表する存在のクラブチーム「A.C.ミラン」が、なぜイタリア語の「ミラーノ」ではなく英語の「ミラン」なのか、理由はそこにある。
 サッカー(=フットボール)は欧州でも南米でも、広く一般大衆に普及している。
(大英帝国と第2次グローバリゼーションについては、拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』の第5章「『第2次グローバリゼーション』時代と『パックス・ブリタニカ』」を参照)

 サッカーが各国で住民に受け入れられて自然に普及していったのに対し、クリケットは英国政府が英国文化を広めるために政策として普及させた。
 特にインド植民地では盛んになり、インドでもパキスタンでも国民的人気のスポーツとなっている。
 オーストラリアとニュージーランド、南アフリカでも人気が高い。

 クリケット発祥の地、英国にはプロリーグがあるが、オーストラリアは英国を上回る強豪国である。
 インドでは圧倒的な大衆人気の国技であり、国民の人気は“ボリウッド映画”(インドのムンバイを中心に作られる商業映画)とクリケットに集中している。
 日本のスポ根アニメの名作『巨人の星』がインド市場向けにローカライズされた際には、設定が野球からクリケットに差し替えられた。

 インドではテレビでクリケットの試合中継をやっているのだが、米国を中心とする「ベースボール文化」に染まっている日本人にとっては、見ていてもあまり面白くは感じられない。
 日本では、米国起源のベースボールが明治時代以降に普及したのに、英国起源のクリケットは普及しなかった。
 その理由は考えてみると面白い。

 サッカーが住民の間で草の根的に普及していったのに対し、クリケットが上から普及していった背景には、英国が階級社会であることがある。
 もともとサッカーが労働者階級のスポーツであったのに対し、クリケットはラグビーと同様、上流階級のスポーツだった。
 上流階級ではクリケットをはじめとするチームスポーツを通じてスポーツマンシップが養われ、規律とチームワークが叩き込まれてきた。
 この点は、ロングセラーの名著『自由と規律-イギリスの学校生活-』(池田潔、岩波新書、1963)に、パブリック・スクールに留学した著者の体験談として詳しく記されているとおりである。
(『「近代スポーツ」からみたイギリスとイギリス連邦』(「麹町ワールドスタジオ 原麻里子のグローバル・ヴィレッジ」2012年6月13日放送、Ustream動画)で、2012年オリンピック・ロンドン大会に際して私が解説しているので参照していただきたい。)

■英国にとって重要性が増すコモンウェルスゲームズ

 さて冒頭でも触れたように、コモンウェルスゲームズは英連邦の加盟諸国間の国際親善と結束を高める目的で4年に1回、持ち回りで開催される。
 英連邦に所属する71の国と地域が参加しているが、英国からイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドが別々に参加するのは、FIFAワールドカップのサッカーと同様だ。

 コモンウェルスゲームズでは10種目の開催が義務付けられており、最大で17種目が行われる。
 必ず開催される10種目には、オリンピックにはない種目が含まれている。
 ローンボウルズ、7人制ラグビー(男子)、ネットボール(女子)、スカッシュだ。
 スカッシュを除いては、日本ではほとんど普及していないスポーツである。

 全世界的に人気のあるサッカーも、英連邦諸国ではきわめて人気の高いクリケットも、コモンウェルスゲームズの種目ではない。
 サッカーはFIFAワールドカップがあり、クリケットはICCクリケット・ワールカップが4年に1回開催されているためだ。
 ちなみにクリケットは、オリンピックでも1900年パリ大会以外では実施されたことがない。

 コモンウェルスゲームズが日本で報道されることはほとんどないが、英連邦加盟国が4年に一度スポーツの祭典を行っていること、しかも、そこには同じアングロサクソンでありながら“スポーツ覇権国” の米国が参加していないこと、フランス語が第1公用語で英語は第2公用語のオリンピック大会との違いなど、現在のグローバル社会を知るカギがいくつも存在する。

 2016年に英国は国民投票の結果、ブレグジット(EU離脱)を決定して、現在はその交渉のまっただ中にあるが、EU離脱後の英国にとって英連邦が持つ意味は経済以外にも計り知れない。
 英連邦加盟諸国の絆を培ってきたコモンウェルスゲームズが今も開催され続けているという事実は、ぜひ頭の中に入れておきたいものだ。
 次回の第22回大会は4年後の2022年、イングランドのバーミンガムで開催予定である。






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