2018年5月1日火曜日

● 日本人の腸内環境は独特:サーファーに多い納豆アレルギー

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JB Press 2018.06.01(Fri) 佐藤 成美
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53209 

長寿にも関連? 
日本人の腸内環境は独特だった
メタゲノム解析に便移植も、注目される細菌たちの働き


●人体には、ヒトの細胞数より多くの腸内細菌が存在する。人体への影響力も大きい

 私たちは毎日さまざまなものを食べているが、その消化や吸収の役割を担うのが「消化管」だ。
 そして消化管に存在する「腸内細菌」の役割も重要だ。
 近年、科学技術の進歩により、腸内細菌の機能の解明が飛躍的に進んでいる。
 各国の人たちの腸内細菌を網羅的に解析する試験も行われ、日本人の長寿との関連性も示唆されている。
 消化管や腸内細菌と健康との関わりが一層注目されている。

■消化管のある場所は体の“外”

 健康なときは、いろいろなものをおいしく食べられるのに、体調がよくないときは、食欲がなかったり、おなかの調子が悪くなったりする。
 胃や腸など消化管のはたらきと健康は密接な関係にある。

 消化管は口から肛門までの食べ物の通り道で、食道から胃、十二指腸、小腸、大腸と消化器がつながっており、全長は9mにもなる。
 食べ物はこの管を24~72時間かけて通り抜け、小腸で栄養素が吸収されたのち、最後は便になる。


●ヒトの主な消化管

 この消化管は体の中を貫いている「1本の管」であり、よく「ちくわの穴」に例えられる。
 ちくわの穴が外部につながってるように、口と肛門も外につながっている。
 意外かもしれないが、消化管の中は体の“外”なのだ。

 消化管には、食べ物とともに病原菌や有害物が絶えず入ってくる。
 体を覆う皮膚と同じように、消化管も外からの刺激や細菌の感染を防ぐ仕組みを持っている。
 中でも腸は「最大の免疫器官」と呼ばれるほど免疫機能が発達しており、腸壁では病原菌や有害物を素早く識別して、排除している。

 腸壁の細胞は寿命が短く、わずか1日ほどで剥がれ落ち、新しい細胞に入れ替わる。
 腸壁の細胞は有害物を排除しつつ、生きていくために必要な栄養素を吸収するという重要な役割を担っているために、常にフレッシュな細胞でなければならないのである。

 食べ物の栄養素と水分の約8割は小腸で吸収され、残りかすは大腸に送られる。
 大腸は、その残りかすを一時的に蓄え、余分な水分をさらに吸収してほどよい固さの便をつくる。
 便は、消化しきれなかった残りかすでできているというイメージがあるが、
 便の約60%は水分、
 約20~25%は腸壁細胞、
 約10~15%が腸内細菌の死骸などで、
 残りかすはわずか5%
にすぎない。

■人体にはヒトの細胞数より多くの腸内細菌がいる

 消化管には約1000種類、数百兆個にものぼる細菌叢(さいきんそう:細菌の集団)が存在する。
 私たちの体をつくる細胞は約37兆個が、それをはるかに上回る数の細菌が消化管の中にすんでいることになる。
 中でも大腸には、圧倒的に多くの数や種類の腸内細菌が存在し、小腸で消化、吸収されなかった残りかすを利用している。
 たとえば、ヒトは食物繊維を分解する酵素を持っていないが、大腸で腸内細菌がせっせと分解しているのだ。

 分解の過程では、さまざまな物質がつくり出される。
 腸内細菌には、生体に必要なビタミンなど有用物質をつくり、感染防御や免疫などにも関わるものもいれば、毒素や発がん物質など有害物質をつくるものもいる。
 これらの代謝物質が体内に吸収され、ヒトの健康に影響を与えていることが明らかになっている。

■細菌のバランスが重要、「便移植」の試みも

 腸内細菌にはヒトにとって有用な細菌もいれば、有害な細菌もいる。
 さらに、日和見菌といってふだんは何もしないが、体が弱ったときには悪さをする細菌もいる。
 腸内の環境を保つには、このような多様な菌が存在し、まわりの細菌と相互作用することが必要だ。
 たとえば、有害な細菌を排除し、有用な細菌だけを残したとしても、私たちにとって有益な状態にはならない。
 健康でいるためには、多様な細菌が存在し、そのバランスが保たれていることが重要なのだ。

 さらに、個人には特有の腸内細菌叢が存在し、そのバランスはかなり安定していることが明らかになっている。
 ヒトは無菌状態で生まれてくるが、出生すると体内に細菌が入り込み、すみつく。
 その後その人にとっての細菌叢が定着する。
 そして腸内細菌叢は年齢とともに変化し、安定した成人型から加齢とともに老人型になっていく。
 加齢とともに増加する細菌が老化と関わっていると考えられている。

 さらに、腸内細菌叢は肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、自閉症などの疾患と関連することが明らかになっている。
 これらの疾患では健康なヒトと異なる種類の菌や組成からなる細菌叢が形成されており、腸内細菌叢の破綻が腸壁細胞に作用し、疾患に影響しているといわれる。

 マウスによる実験では、肥満マウスと正常マウスでは腸内細菌叢が異なっていた。
 そこで、肥満マウスの腸内細菌叢を正常マウスに移植すると、体脂肪量が増えた。

 また、2型糖尿病の研究では、人種や食事の違いにもかかわらず、2型糖尿病患者に特定の腸内細菌種の変化が見られた。

 2016年には順天堂大学で潰瘍性大腸炎の治療に、便移植による腸内細菌療法の有効性が示された。
 これは抗菌剤により患者の腸内細菌叢をリセットし、さらに健康な人の便から取り出した腸内細菌叢を腸に移植するというものだ。
 副作用の少ない便移植は腸疾患ばかりでなく、糖尿病など他の疾患の治療にも有効ではないかと期待されている。

■日本人の腸内細菌叢、有能な特徴が明らかに

 近年では、科学技術の進歩によって、腸内細菌の全体像が飛躍的に解明されつつある。
 現在行われているのは「メタゲノム解析」といい、便から腸内細菌のDNAをまるごと取り出し、網羅的に解析する方法だ。

 早稲田大学など共同研究グループは、このメタゲノム解析により、日本人の腸内細菌叢の特徴を解明した。
 研究グループは、日本人の腸内細菌叢の大規模な解析を行い、そのデータを欧米や中国など11カ国のデータと比較した。
 すると、国ごとに特徴的な細菌叢が形成されており、日本人の腸内細菌叢は、代謝機能などの生体に有益な機能を持つものが多く含まれていた。
 このことが、日本人の平均寿命の長さや肥満率の低さに関連するのではないかと示唆されている。

 また、日本人の約90%の腸内細菌叢には、海苔やワカメに含まれる食物繊維を分解する酵素の遺伝子が含まれているのに対し、他の国では15%以下だった。
 どうやら、海苔やワカメを消化できる細菌が日本人の腸に多く存在しているらしい。

 このような腸内細菌叢の特徴は、食生活や生活習慣を反映していると考えられるが、食事情報と腸内細菌叢のデータの関係は一致しなかった。
 腸内細菌叢の形成には、食事以外の要因も大きいらしい。

 消化管に定着した細菌叢を変えることは難しいが、食事によって有用な菌のはたらきを活発化させることはできそうだ。
 そのために多く摂取したいのは、腸内細菌が利用する食物繊維やオリゴ糖である。
 食物繊維は便通をよくするだけでなく、腸内細菌が食物繊維を分解してできる物質が肥満を抑えていることも明らかになっている。

 普段はあまり意識しないが、消化管の仕組みや腸内細菌の作用を理解することは健康への第一歩かもしれない。
 腸内細菌とは仲良く付き合っていきたいものだ。




現代ビジネス 2018.07.29 木原 洋美医療ジャーナリスト
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56694

サーファーに納豆アレルギーが多い、その意外な理由
知られざる「交差反応」の恐怖

アレルギー患者が、気をつけなければいけないアナフィラキシーショック。
実は特定のアレルゲンだけでなく、異なる抗原でも起こりうるという。
これは「交差反応」と呼ばれる症状。
そのリスクは意外なところに潜んでいる。

■ハチは2回目が危ない、とは限らない
「殺人アリ上陸!」――。

2017年、神戸港で荷揚げされたコンテナからヒアリが発見され、日本中が大騒ぎとなった。
ヒアリ(火蟻)は、その名の通り、刺されると火傷したような熱感を伴った痛みを感じる恐ろしい生物。
毒性はスズメバチと同程度に強く、北米では毎年100人以上が死亡している。

連日、マスコミの報道では、毒性の恐ろしさが強調されていたが、対応にあたった神戸市立医療センター中央市民病院・救命救急センターの有吉孝一医師は、
「怖いのはむしろ、毒性の強さよりも、アレルギーの交差反応によるアナフィラキシーショック(急性アレルギー中毒)でした」
と語る。

「交差反応によるアナフィラキシーショック」
というのは一体どういうことなのだろうか。
アナフィラキシーショックとは、アレルゲンとなる物質を摂取、接触または吸い込んだときに起きるアレルギー症状で、特に症状が重いものを指す。
発症から短時間で症状が悪化することもあり、重篤な場合は5~30分で心停止に至り、落命する危険性がある。

厚生労働省の調査によると、2001年から13年までのアナフィラキシーショックによる死者は768人。
原因はハチ266人、食べ物40人。
心停止や呼吸停止に至る時間はハチが約15分、食べ物30分に対し、薬剤は5分と短い。

有名なのは、ハチによるアナフィラキシーショック。
ハチは1回目より2回目に刺されたほうが重篤化しやすいという話を聞いたことがあるだろう。
これは一度刺されると、体内で抗体ができてしまい、二度目に刺された際に体が過敏反応してしまうのだ。

では、同じアレルゲンにだけ気をつけておけばよいかといえば、それは違う。恐れるべきは「交差反応」である。
これは、あるアレルギーを持っている人が、そのアレルゲンと似たような物質が含まれた、別の食物や毒などに対してもアレルギー症状を起こしてしまう現象。
人間の免疫機能は緻密なようで、案外ざっくりしているものなのだ。

「ヒアリは、アシナガバチやスズメバチの毒と交差反応性があり、これらのハチ毒はムカデの毒とも交差反応をきたすことが知られています。
つまり、ヒアリに刺されるのが初めてであっても、その前にムカデに刺されたことがあれば、アナフィラキシーを起こす可能性が高まる。
逆にヒアリに一度でも刺された人が、次にハチに刺された場合も危険です。
だから救急としては、ヒアリの刺された患者が運ばれてきた際には、アナフィラキシーショックに対する備えが治療の根幹となります」(有吉医師)
交差反応がやっかいなのは、思いもよらない物質同士に、まさかの“似た者同士”が存在することだ。

「実は意外な組み合わせでアナフィラキシーショックが起こることが、最近分かりました。
サーファーやダイバーには納豆アレルギーが多いんですが、そこに交差反応が潜んでいたんです」(有吉医師)

■納豆アレルギーの8割がマリンスポーツ愛好家

納豆は、日本が世界に誇る健康食品。
しかし、その納豆にアレルギーを示す人にはある共通点を持っていることを、横浜市立大学附属病院皮膚科の猪俣直子医師は発見した。
もともと猪俣医師のもとには、納豆アレルギーの患者は多くやって来ていた。
ある日、猪俣医師は患者の多くが「日焼けしている」ことに気づいた。
その理由を聞いてみるとサーファー、スキューバダイバー、潜水作業員など、ふだん海にいる時間が長い人が83.3%を占めたという。

(どうやらマリンスポーツが関係していそうだ……)
察しがついたが、どう関係しているのかまでは分からない。
疑問が解けたのは、患者の1人が中華料理店でクラゲを食べてアナフィラキシーショックを起こしたことがきっかけだった。
実はクラゲの触手には、納豆のネバネバ成分と同じポリガンマグルタミン酸(PGA)が含まれている。
海でクラゲに刺されたサーファーたちがクラゲアレルギーになり、交差反応性がある納豆に対してもアレルギーを起こすようになったのだろうと結論付けた。

クラゲはマリンスポーツ愛好者にとっては天敵

納豆アレルギーの患者は多くはないものの、発症すると75%が、じんましんや呼吸困難などの重い症状のアナフィラキシーショックに陥る。
しかもPGAは、納豆以外にも調味料として冷やし中華のスープや健康飲料、スポーツ飲料などに含まれているほか、化粧品、石鹸、ヘアケア用品等に保湿剤として添加されている。
最近では、それらが原因と思われる症例も報告されている。
「だから、サーファーやダイバーのみなさんは、もしもアナフィラキーショックになったら、マリンスポーツ愛好家であることを医師や救急隊員に伝えてください。
アレルギーの治療にはアレルゲンの特定が大切ですから」(有吉医師)

■ダニアレルギーの人は甲殻類に注意

納豆とクラゲ以外にも、交差反応性が分っている組み合わせは多々ある。
「ダニアレルギーを持っている人は、エビとカニにもアレルギーをもっていることが多いです」
そう有吉医師は教えてくれたが、これはちょっとショッキングかもしれない。
エビ、カニに対する甲殻類アレルギーは、花粉症ほどではないが、ポピュラーで罹患者も多い。
甲殻類のアレルゲンはトロポミオシンといって、エビ、カニのほか、ロブスター等のザリガニ類にも含まれているほか、甲殻類と同じ節足動物に属するゴキブリ類、ダニ類で約80%、軟体動物のタコ類、イカ類、貝類で60%程度、いずれも交差反応が確認されているという報告もある。

ゴキブリの場合は、ダニと同じように、糞や死骸がまじったチリやホコリを吸い込むことで交差反応を引き起こす。
日常的にゴキブリに触れる機会はかなり少ないが、ダニアレルギーの人は、ゴキブリをはじめ、エビ、カニ、タコ、イカなどの食物に要注意だ。

■バナナやアボカドで喉が痒くなる人は…

医療の現場で特に問題視されている交差反応が「ラテックス・フルーツ症候群」だ。
1980年頃から欧米諸国では、天然ゴム(natural rubber latex)製品との接触によって起こる「ラテックスアレルギー」で多数の死亡例が報告され、大問題になった。

天然ゴム製品は、手袋、カテーテル・絆創膏などの医療用具、炊事用手袋、ゴム風船、コンドームなど、私たちの身の回りにもあふれている。
そしてゴムは、バナナ、アボカド、キウイ、栗などと交差反応がある。
もし、これらのフルーツやナッツ類を食べて、唇や舌、口の中が腫れたり、かゆみやイガイガする感じがあらわれた場合には、ラテックスアレルギーを疑った方がいい。
食べたことで、アナフィラキシーショックの引き金になることもあるからだ。

医療従事者、特にゴム製手袋を多用する手術執刀医・看護師、歯科医療従事者、繰り返し手術やカテーテル治療等を受けている患者は特に危ない。
たとえば日本ラテックスアレルギー研究会は、次のような事例を報告している。

●ラテックスアレルギー患者がアナフィラキシーショックを発症
30歳代の看護師が、業務で使用していた天然ゴム製のゴム手袋で手指にかゆみが発現したため、皮膚科で検査したところ、ラテックスアレルギーと診断された。
診断と同じ月に、栗きんとんを摂取したところ、発作性のせきと喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー又はヒューヒューという呼吸音)が出現したので、救急外来を受診した。
診察の結果、気道内の粘膜のみに発疹の症状があったので、アドレナリンを投薬し、一旦は改善したが、その後、抗アレルギー作用薬を点滴したところ、更に動悸、吐き気、意識混濁が起こった。
確認したところ、点滴に使用する管に一部天然ゴム製のゴム管を使用していたことから、栗と天然ゴムによるアナフィラキシーショックを起こしたと疑われ、そのまま入院となった。(報告年:1998年、30歳代女性)

ラテックスアレルギーを持っていたこの看護師は、交差反応がある栗きんとんを食べたためにアナフィラキシーショックを起こしたのだ。
日本ラテックスアレルギー研究会によると、現在医療用具では、ほとんどの製品でラテックスフリー化が進み、手術用手袋も、性能のよい非ラテックス製手袋が販売されているが、交差反応を示すフルーツには気をつけなければいけない。

2017年3月、経済産業省は、消費者庁および厚生労働省と連携し、ラテックスアレルギーラテックス・フルーツ症候群について消費者への注意喚起を行った。
年々患者数が増加し、かつ複雑化するアレルギー疾患。神戸中央市民病院の救命救急センターには、2017年だけで160人ものアナフィラキシーショック患者が搬送されたという。
そのほとんどは食物によるものだった。

アレルギー、特に「交差反応」はまだまだ未解明なことが多く、医者任せでは自分の身を守れない。
なにせ毎日食べている納豆が、生命を脅かす存在になる可能性もあるのだから怖い。
しかも、昨日までは平気だった食物に、ある日突然、反応してしまうこともある。
アレルギー体質の人は情報収集に努めるとともに、食物を口にする際は、むくみやピリピリ等の異常が生じないか、自分自身に注意を払う必要がある。

診断・治療・予防には、「いつ、何を食べたか」「どれだけの量を食べたか」を記録する、『食物日誌』が推奨されている。
アレルギーっぽい症状があらわれたら即、日誌を持って専門医を受診しよう。
まずは、自分が何に対して反応しているのかを特定することが先決だ。





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